ジャニーズヒット曲から見る歌詞の変遷

1.はじめに

 1.1 研究動機・目的

母親の影響を受け、幼少の頃より、気づけば生活にはジャニーズがいた。増え続けるアイドルの中でも別格の歴史と影響力を持つジャニーズ事務所のタレントたちの名前を、テレビ番組、CM、映像作品、様々なランキングなどで目にしない日はないと言っても過言ではない。先日、ジャニーズ事務所の創設者であるジャニー喜多川氏が亡くなったことも、このテーマで研究をすることの大きな後押しとなった。この研究では、男性アイドルの存在が確立された昭和から平成、令和となった現代にいたるまで多くの人々を魅了しているジャニーズのエンターテインメントについてより深く知ること、何がそこまで我々を惹きつけるのかを明らかにすることを目的とする。

 

 1.2 ジャニーズ事務所について

ジャニーズ事務所とは、「エンターテイメントを通じて世界中の皆さまに幸せをお届けする」という目標のもと、1975年1月23日にジャニー喜多川氏によって設立された芸能プロダクションである。ジャニー喜多川氏は、2011年に「最も多くのコンサートをプロデュースした人物」、「最も多くのナンバーワン・シングルをプロデュースした人物」として、2012年には「最も多くのチャート1位を獲得した歌手をプロデュースした人物」としてギネス記録に認定されている。(以上、ジャニーズ事務所公式サイト¹を参照の上、筆者記述)

 

  1. 研究について

 2.1 研究対象

ジャニーズ事務所公式サイトを参考にし、1964年から2019年にジャニーズ事務所からデビューしたソロアーティストとグループの中から、リリースされたシングルが3枚以上あるアーティスト、計26組を選出した。また、ジャニーズ事務所に所属しており歌手としての活動は行っているが、公式サイトに「デビュー」と明記されていないケース(ex:中山優馬)や、グループが解散した結果、現在ソロ活動を行っているケース(ex:木村拓哉)、グループを脱退して独立したケース(ex:山下智久)は除外するものとした。

各アーティストからリリースされたシングルのうち、オリコン年間シングルランキングにおいて、売上枚数が多かったもの上位3曲、計78曲を研究対象とした。なお、両A面の場合は、1曲目に収録されている曲を採用した。デビュー後に独立したアーティストに関しては、ジャニーズ事務所に所属していた期間のみを対象とした。売上が同率であった場合は、オリコン年間シングルランキングへの登場週数が多いものを採用した。

 

対象となるグループは以下の通りである。(数字はデビュー年)

 

〈昭和〉

1968年 フォーリーブス

1972年 郷ひろみ

1977年 川崎麻世

1980年 田原俊彦

1980年 近藤真彦

1982年 シブがき隊

1983年 THE GOOD-BYE

1985年 少年隊

1987年 光GENJI

1988年 男闘呼組

 

〈平成〉

1990年 忍者

1991年 SMAP

1994年 TOKIO

1995年 V6

1997年 Kinki Kids

1999年 嵐

2002年 タッキー&翼

2003年 NEWS

2004年 関ジャニ∞

2006年 KAT-TUN

2007年 Hey! Say! JUMP

2011年 Kis-My-Ft2

2011年 Sexy Zone

2012年 A.B.C-Z

2014年 ジャニーズWEST

2018年 King & Prince

 

 2.2 研究方法

・歌詞のテキストデータを作成した。信頼性と正確性を重視したかったため、インターネット上の歌詞サイトを参考にするのではなく、実際に販売されているCDの歌詞カードを目視で確認し、自らの手でWordに書き起こし、作成した。

 

・「文末表現の使用状況」「楽曲のテーマ分類」「一人称・二人称の使用状況」「漢字とルビの組み合わせ」「総使用語数と異なり語数」「頻出語彙」の6つの項目から調査を行う。

 

・本研究では計量テキスト分析を行うために、一部KH Coderを使用した。KH Coderとは、樋口耕一さんが作成した、テキスト型(文章型)データを統計的に分析するためのフリーソフトウェアである。数あるソフトウェアの中からKH Coderを選定した理由としては、恣意的な操作を避けてデータを計量的に分析することができるからである。

 

3.先行研究

鈴木直枝・山口孝志(2000)「流行歌の歌詞にみる言語の変遷 : 過去34年間のヒット曲を通して」,『東北生活文化大学三島学園女子短期大学紀要』,31,p. 55-65,東北生活文化大学東北生活文化大学短期大学部では、1966年から1999年の流行歌を対象とし、その変遷についての調査を行っている。オリコン歴代シングルにみられる34年間の上位10曲を取り上げ、1966年から1979年を第一期、1980年から1989年を第二期、1990年から1999年を第三期に分けた上で、「文末表現」「漢字とルビの組み合わせ」「地名の使用」「感嘆詞」の4つの観点から発売年ごとの使用回数を表に示すなどして考察を行っている。

 

 

  1. 研究結果・考察

4.1楽曲のテーマ分類

今回、研究の対象とする楽曲をテーマ別に分類するにあたり、「恋愛」「応援」「その他」の3つの項目を設けた。テーマ分類の主な基準は以下の通りである。

 

「恋愛」 

・タイトルに「恋」、「愛」という言葉や、それと同じ意味を持つ言葉が含まれている

・「2人」という言葉が多く見られる

・身体的接触、一般的に魅力的とされる体の部位の描写が見られる 

 

「応援」

・勝利や挑戦、応援の意味がある言葉が含まれている

・ポジティブな内容において「~しろ」、「~しよう」のような命令や勧誘の表現が見られる

 

表1

  歌手名 曲名 テーマ
1 フォーリーブス 夏の誘惑 恋愛
2 フォーリーブス あなたの前に僕がいた 恋愛
3 フォーリーブス 愛と死 恋愛
4 郷ひろみ よろしく哀愁 恋愛
5 郷ひろみ 哀愁のカサブランカ 恋愛
6 郷ひろみ 逢いたくてしかたない 恋愛
7 川崎麻世 暗くなるまで待って 恋愛
8 川崎麻世 天使の顔につばを吐け 恋愛
9 川崎麻世 ラブ・ショック 恋愛
10 田原俊彦 哀愁でいと 恋愛
11 田原俊彦 ハッとして!Good 恋愛
12 田原俊彦 恋=Do! 恋愛
13 近藤真彦 スニーカーぶる~す 恋愛
14 近藤真彦 ギンギラギンにさりげなく 恋愛
15 近藤真彦 ミッドナイト・シャッフル その他
16 シブがき隊 ZIGZAGセブンティー 恋愛
17 シブがき隊 100%…SOかもね! 恋愛
18 シブがき隊 挑発∞ 恋愛
19 THE GOOD-BYE 気まぐれONE WAY BOY 恋愛
20 THE GOOD-BYE You惑 May惑 恋愛
21 THE GOOD-BYE 涙のティーンエイジ・ブルース 恋愛
22 少年隊 仮面舞踏会 恋愛
23 少年隊 君だけに 恋愛
24 少年隊 デカメロン伝説 恋愛
25 光GENJI パラダイス銀河 その他
26 光GENJI 太陽がいっぱい 恋愛
27 光GENJI ガラスの十代 恋愛
28 男闘呼組 DAYBREAK 恋愛
29 男闘呼組 恋愛
30 男闘呼組 TIMEZONE 恋愛
31 忍者 お祭り忍者 恋愛
32 忍者 リンゴ白書 恋愛
33 忍者 おーぃ!車屋さん 恋愛
34 SMAP 世界に一つだけの花 応援歌
35 SMAP 夜空ノムコウ その他
36 SMAP らいおんハート 恋愛
37 TOKIO LOVE YOU ONLY 恋愛
38 TOKIO 宙船 応援歌
39 TOKIO メッセージ 恋愛
40 V6 愛なんだ 恋愛
41 V6 MUSIC FOR THE PEOPLE 応援歌
42 V6 WAになっておどろう その他
43 Kinki Kids 硝子の少年 恋愛
44 Kinki Kids 愛されるより愛したい 恋愛
45 Kinki Kids 全部だきしめて 恋愛
46 A・RA・SHI 応援歌
47 Calling その他
48 I seek 恋愛
49 タッキー&翼 Venus 恋愛
50 タッキー&翼 Ho! サマー 恋愛
51 タッキー&翼 ×~ダメ~ 恋愛
52 NEWS 希望~Yell~ 応援歌
53 NEWS weeeek 応援歌
54 NEWS チャンカパーナ 恋愛
55 関ジャニ∞ 無責任ヒーロー その他
56 関ジャニ∞ キング オブ 男! 応援歌
57 関ジャニ∞ ER 応援歌
58 KAT‐TUN Real Face その他
59 KAT‐TUN SIGNAL その他
60 KAT‐TUN 僕らの街で 恋愛
61 Hey!Say!JUMP Ultra Music Power 応援歌
62 Hey!Say!JUMP White Love 恋愛
63 Hey!Say!JUMP 真剣SUNSHINE 恋愛
64 Kis-My-Ft2 Thank youじゃん! 応援歌
65 Kis-My-Ft2 Everybody GO! 応援歌
66 Kis-My-Ft2 Kiss魂 恋愛
67 Sexy Zone 君にHITOMEBORE 恋愛
68 Sexy Zone Sexy Zone その他
69 Sexy Zone ラクリだらけのテンダネス 恋愛
70 A.B.C‐Z Moonlight walker 恋愛
71 A.B.C‐Z Reboot!!! 応援歌
72 A.B.C‐Z Black Sugar 恋愛
73 ジャニーズWEST ええじゃないか その他
74 ジャニーズWEST アメノチハレ 応援歌
75 ジャニーズWEST プリンシパルの君へ 恋愛
76 King & Prince シンデレラガール 恋愛
77 King & Prince Memorial 恋愛
78 King & Prince 君を待ってる 応援歌

 

デビュー年が昭和のグループの楽曲に関しては、30曲中28曲、約93.3%が恋愛をテーマとしていた。しかし、デビュー年が平成のグループに関しては、恋愛をテーマとする楽曲は48曲中26曲で約54.1%、応援をテーマとする楽曲は48曲中14曲で約29.1%、その他が48曲中8曲で約16.7%と、デビュー年が最近になるにつれて、恋愛曲が減少していることが分かる。

また、1995年以降、ジャニーズ事務所のアーティストがバレーの国際大会において公式サポーターを務め、並びに大会テーマソングも担当することが増加しているのも、昭和デビュー組に比べて平成デビュー組に応援をテーマとする楽曲が多い理由の一つであると考えた。

 

ワールドカップバレー(フジテレビ系)

1995年 V6「MUSIC FOR THE PEOPLE

1999年 嵐「A・RA・SHI」

2003年 NEWS「NEWSニッポン」

2007年 Hey! Say! JUMP「Ultra Music Power」

2011年 Sexy ZoneSexy Zone

2015年 Sexy ZoneCha-Cha-Chaチャンピオン」

2019年 ジャニーズWEST「Big Shot!!」

 

グラチャンバレー(日本テレビ系)

2005年 KAT-TUN「GLORIA」

 

オリンピック世界最終予選(フジテレビ/TBS系)

1996年 V6「BEAT YOUR HEART」

2004年 NEWS「希望~Yell~」

2008年 Hey! Say! JUMPDreams come true

2012年 Sexy Zone「キミのため ボクがいる」

2016年 Sexy Zone「勝利の日まで」

(以上ジャニーズネット等²を参照し筆者記述)

 

久保正敏(1995)によると、1960年代には多く見られた「若者モノ」は1975年以降に減少し、代わりに「恋愛モノ」が台頭したとある。しかし、1960年代にデビューした「フォーリーブス」の時点で「恋愛モノ」をいくつもリリースしていた点からは、ジャニー喜多川氏の先見の明を窺うことができる。

 

4.2 文末表現の使用状況
今回取り上げた文末表現は、先行研究である鈴木直枝他(2000)を参考にし、「よ」「の」「さ」「ね」「だ」「ぜ」「わ」「のよ」「だよ」の9種類とした。KAT-TUN「SIGNAL」の「どんな夢見て一人ぼっち夜明け待ったの?」のような疑問形や、V6「MUSIC FOR THE PEOPLE」の「夢に燃えてる僕の背中よ」のような呼びかけの形も併せて抽出した。THEGOODBYE「気まぐれONE WAY BOY」に「君たち天才少女……だよネ!」の形で登場する「ネ」は、「ね」と同じものとしてカウントした。

 

表2

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26組中、最も頻出だったのは「さ」の25組で、「よ」の24組、「ね」の15組、「だ」の14組と続いた。

男性に特徴的な終助詞「ぜ」は、男性アーティストが多く所属するジャニーズの歌詞には多用されているのではないかと予想していたが、平均使用率は6.6%と、意外にも予想以上に低い結果となった。

特徴的な結果となった点は、女性の語尾に多く見られるとされる「のよ」が一度も登場しなかった点である。同じく女性の語尾に多く見られる「わ」は、ジャニーズWESTの「ええじゃないか」に「ホンマにホンマにホンマにホンマにかなわんわ~」の形で2回登場するが、用例の通り関西弁としての用法であるため、先行研究で予想されている女性語としての用法は、今回の調査では登場していないということになる。

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まず特徴として、「私」「あたし」のような女性に特徴的な一人称が一度も登場していない点が挙げられる。

最も多かった組み合わせは、「僕」と「君」で、全体の26.6%を占めた。2番目に多かった組み合わせは「俺」と「お前」で、全体の17.6%、3番目に多かった組み合わせは「僕ら」と「君」で、7.8%であった。また、一人称と二人称の片方しか使われていない楽曲も存在した。「忍者」「V6」「タッキー&翼」は一人称が一度も使用されていなかった。一方、二人称が使用されていない楽曲は今回の研究対象には一曲もなかった。

 

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「僕」と「君」の組み合わせが見られたのは、上記の17曲。「俺」と「お前」の組み合わせが見られたのは、上記の6曲であった。興味深かったのは、この二つの組み合わせの間に、共通して含まれるグループが存在しなかった点である。つまり、グループによって主に使われる一人称、二人称に区別があり、グループによってそう見せたいコンセプトが存在するのではないかと考えた。

次に、一人称、二人称の単数形と複数形について見ていく。最も使用頻度が高かったのは二人称の単数形で、313回登場した。次に多かったのは一人称の単数形で、120回登場した。それ以降は、一人称の複数形が57回、二人称の複数形が2回と続いた。

久保正敏(1995)「ニューミュージックに見る恋愛風景」によると、1965年から1969年には「若者」モノがかなり見られたが、以降は減少し、「恋愛」モノが大いに数を伸ばしたとある。加えて、それに伴い、歌詞に友人や肉親など、恋愛対象以外の人物が登場する比率は減少し、二人だけの世界が歌われるようになったという。そのため、1968年デビューのフォーリーブスなどに比べ、デビュー年が最近のグループの曲になるにつれて、複数形>単数形から単数形>複数形へと変化するのではないかと考えた。しかし、ジャニーズ事務所に関しては全くそのような傾向はなく、時代ごとの流行にはこだわらない曲作りを行っていることがわかった。

 

4.4 漢字とルビの組み合わせ

ルビが振ってある用例の中でも、特殊な読み方ではなく、送り仮名が一般的ではなかったり、単に難読漢字であったためルビが振られていると思われる用例は除外した。以下に記す。

 

川崎麻世「天使の顔につばを吐け」

・俺達二人揃って二人 悪(ワル)             

・俺達気分次第で変(かわ)る

 

川崎麻世「ラブ・ショック」

・白い渚を逃げても キラリこの眼が迫(せま)る

 

少年隊「仮面舞踏会」

目眩(めくるめ)くってくれ

・俺だけを見つめてくれよ 永遠(とわ)

 

・少年隊「君だけに」

・君を見つめると 僕の胸の中は 星が渦(うず)を巻く 銀河に変わるよ

 

少年隊「デカメロン伝説」

・ながい睫毛(まつげ)の 君の瞳 南に浮ぶ星のようだね

・悲劇に喜劇 守ってやる 永遠(とわ)にいつまでも

 

男闘呼組「TIME ZONE」

・俺のシャツに埋(うず)めてみても この夢 止められないのさ

 

タッキー&翼「Venus」

剥(む)き出したナイフ 突き刺さる

琥珀色(こはくいろ)の 吐息に消えた 砂漠さえも 満たしたい

蜃気楼(しんきろう)あやつる空に 愛の輝き 放て

タッキー&翼Ho! サマー

・渇いた心 暑い夏の仕業(しわざ)

 

タッキー&翼「×~ダメ~」

赤裸々(せきらら)がキララ 輝く

 

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郷ひろみ、少年隊、忍者で見られる、漢字に対して同じ意味の外国語のルビを振るパターンは、デビュー年が最近になるほど減少し、現在ではほとんど見られなくなっていることがわかる。

鈴木直枝他(2000)によると、漢字に組み合わせるルビは年代を追うごとに段階を踏みながら多様化しているが、ジャニーズの場合はその研究結果には当てはまらず、アーティストによって、「漢字とルビの独特な組み合わせが多い」のか、あるいは「一般的によく知られているような組み合わせが多い」のかを使い分け、アーティストごとに特徴づける工夫があるように思った。

また、特殊な例としてタッキー&翼の「×~ダメ~」では、以下のような英文を日本語のように読ませるルビが見られた。このような例は、V6の「Darling」や関ジャニ∞の「T.W.L」(どちらも今回の研究対象ではない)などにも登場している。

 

タッキー&翼「✕~ダメ~」

I'm sick, tell you (アイシテル)

My real (マリア)

More on one love night (モウオワラナイ)

My Rainbow world (マウレンボハ)

Love me up (ラミア)

Die kiss metal (ダキシメテ)

It's so(イッソ)

 

V6「Darling」

Darling! Darling! いいJust night(いいじゃない)

割り切れないshotにgoodときてる(グッときてる)

Darling! Darling! What感eye(わかんない)

イタいぐらいFitするmind

 

Darling! Darling! Knight病んで(悩んで)

手探りの行為じゃpinとこない(ピンとこない)

Darling! Darling! More終わんない(もう終わんない)

ウラハラにHitしてたい

 

 

関ジャニ∞「T.W.L」

Don’t cry(どんくらい)君はどんくらい 上手く笑えずに生きてんの

だからno more(飲もう)僕は飲もう その痛みさえ知った上で

 

 

〇4.5 総使用語数と異なり語数

アーティスト別に比較をするため、抽出した上位3曲を1つにまとめ、KH Coderにかけた。以下の表は、その結果を基に作成したものである。

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総使用語数の最大値は、A.B.C-Zの1641、最小値はフォーリーブスの372で、その二つの値の差は1269であった。また、異なり語数の最大値は、KAT-TUNの416、最小値はフォーリーブスの119で、その二つの値の差は297であった。

表8を見ると、総使用語数は、多少の増減はあるが、全体的にみると年々増加傾向にあることがわかる。中でも1999年にデビューした嵐を皮切りに総使用語数が1000を超え始めていることがわかった。

これらのことから、一曲当たりの語数が年々増加傾向にあることがわかる。その第一の理由として、歌のジャンルにおいて、ラップが台頭してきたことが挙げられる。実際に調べてみると、やはり今回の研究対象とした78曲の中では、1999年にリリースされた嵐の「A・RA・SHI」が、初めてラップが登場した曲であった。それ以降、NEWSの「weeeek」、KAT-TUNの「Real Face」「SIGNAL」、Hey! Say! JUMPの「Ultra Music Power」、Kis-My-Ft2の「Kiss魂」と、ラップパートのある楽曲が次々と登場している。

ラップとは別に、次のような例もある。

 

NEWS「チャンカパーナ

美しい恋にする 美しい恋にするよ 

美しい恋にするから 約束するよ、チャンカパーナ

 

→メンバーそれぞれの語りパートが存在する。

 

関ジャニ∞「ER」

そうですきっと天邪鬼なんです

「やれ!!」と言われりゃやりたくなくなるし

「もうダメだ」なんて誰かの言葉が

世界救世の命に聞こえる

 

→話し口調のパートが存在する。話し言葉であることを強調するかのように、実際に歌詞にはカギ括弧が使用されている。

 

上記のような楽曲も増加傾向にあるため、一曲に詰め込まれる言葉の数は増加していると考えた。

 

また、注目したいのは、一曲当たりの語数は年々増加傾向にあるにもかかわらず、総使用語数に比べて、異なり語数にあまり大きな変化が見られないという点である。つまり、近年の楽曲には繰り返し表現を多用する傾向があると言える。これが、一曲当たりの語数の増加傾向について考えうる第二の理由である。

 

 

4.6 頻出語彙

 KH Coderを使用し、アーティストごとに3曲をまとめ、頻出語彙表を作成した。フォーリーブスのみ2回以上登場したもの、その他のアーティストは3回以上登場したものを分析の対象とした。

各アーティストの抽出結果において、より正確なデータを示すため、一部のアーティストに強制抽出を含むいくつかの作業を行った。主に英単語においては、抽出結果に誤差が生じたため、一時的に「コンマ」「アポストロフィ」「中点」「読点」「半角感嘆符」などの記号を排除、もしくは単語と記号の間にスペースを空けた上で検索を行った。結果には記号等を元の形に戻し、記載している。また、「~」「‼」などの記号が単独で抽出されている場合は排除した。

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まず、100%英語を使用している曲は見られなかった。

関ジャニ∞ジャニーズWESTにおける頻出語彙は、100%日本語であった。どちらも関西出身者で結成されているグループであるため、関西弁を使用する歌詞が多く、それに伴って日本語の使用率が高くなっているのではないかと考えた。

最も特徴的であったのは、川崎麻世に「まよ」14回、嵐に「A・RA・SHI」が10回、NEWSに「NEWS」が6回、関ジャニ∞に「無限」が4回、Hey! Say! JUMPに「JUMP」「Jumping」「J.U.M.P」合わせて14回、Kis-My-Ft2に「Kiss」が15回、Sexy Zoneに「sexy」が4回、A.B.C-Zに「A.B.C-Z」が4回と、それぞれのアーティスト名、グループ名や、それに含まれる特徴的な言葉、関連する言葉が歌詞に登場している点である。

 

川崎麻世「天使の顔につばを吐け」

ままよ まよ まよ まよ 迷わずに 愛し合えば

まよい まよ まよ まよ 迷い事 増えるだけ

 

嵐「A・RA・SHI」

体中に風を集めて 巻きおこせ

A・RA・SHI A・RA・SHI for dream

 

NEWS「希望~Yell~」

N.E.W.S.North. East. West. South.

Do The Best! Get The Grory! V.I.C.T.O.R.Y

Fly To High Wiz NEWS

 

関ジャニ∞無責任ヒーロー

夢は無限大無責任ヒーロー

 

Hey! Say! JUMP「Ultra Music Power」

Johnny's Ultra Music Power

  1. U. M. P. J. U. M. P. JUMP

Kis-My-Ft2「Kiss魂」

Kiss me baby

Kissでなきゃ キミの心満たされない

街中が 口付けをもうやめられない

 

Sexy ZoneSexy Zone

時代を創ろう Sexy Zone

僕ら乗せながら Sexy時代を創り出す

 

A.B.C-Z「Reboot!!!」

ABC, A.B.C-Z, ABC, A.B.C-Z, ABC, ABC Yeah!!

 

King&Prince「シンデレラガール」

I wanna always be your King & Prince

 

これは、川崎麻世を除けば、嵐以降にデビューしたグループに多く見られており、2000年代にデビューしたグループの特徴であると言える。主にデビュー曲に見られることが多く、一人でも多くの人に名前を知ってもらおうという意図があると推測した。嵐やSexy Zoneのように、グループ名がそのままデビュー曲のタイトルになっている例も存在する。King&Princeの場合は、「シンデレラ」という自身のグループ名である「キング」と「プリンス」の対とも言える言葉をタイトルに用いることで、グループ名をより印象付けていると言える。

  

  1. 考察

一人称のない楽曲は存在するにも関わらず、二人称のない楽曲は存在しない点から、相手に呼びかけるような歌詞が多いことがわかった。女性に特徴的な一人称や、語尾が一切使用されていない点からは、男性目線の楽曲が多いことがわかった。これは、ジャニーズ事務所に所属するアーティストが男性であること、彼らを応援しているほとんどが女性であることと大きく関係していると考えた。男性アイドルであるジャニーズの楽曲は、数多くの人々を魅了するための計算と工夫の上で作られており、ジャニーズ事務所がここまで大きな影響力を持つようになったことは、至極当然であると言える。

 

  1. 終わりに

物心ついた頃から当たり前のように聴いてきた彼らの楽曲を、新しい観点から見ることができ、大変興味深かった。

一曲当たりの語数が増えているという結果を掘り進め、曲の長さとの関係性についても調べてみたいと思ったが、時間の関係上、手が回らなかった。

また、頻出語彙について研究を進めるうちに、独特な造語が多く見られることも気が付いたため、調べてみたいと思ったが、同じく手が回らなかった。以上2点についての考察を進めることを、今後の課題としたい。

 

最後になりましたが、本論文の作成にあたり丁寧なご指導ご鞭撻を賜りました◎◎教授、及び終始適切な助言を頂きました◎◎ゼミの先輩・同期・後輩の皆様、SNSでの呼びかけにも関わらず、大変多くの資料や、それ以上に多くの温かいお言葉を下さったジャニーズオタクの皆さまに、心からの感謝を申し上げます。


 そして、世界中の人々に幸せを届け続ける、ジャニーズ事務所に所属するすべてのアーティストの皆さまと、創立者であるジャニー喜多川氏へ多大なる敬意と感謝を表し、本論文の結びとさせていただきます。

 

 

 
   

 

____________

¹https://www.johnny-associates.co.jp/(最終閲覧日2019年12月12日)

²Sexy ZoneCha-Cha-Chaチャンピオン」「勝利の日まで」、ジャニーズWEST「Big Shot!」

https://www.johnnys-net.jp/(最終閲覧日2019年12月12日)

Hey! Say! JUMP「Ultra Music Power」「Dreams come true

https://www.j-storm.co.jp/(最終閲覧日2019年12月12日)

Sexy ZoneSexy Zone」「キミのためボクがいる」

 →https://sexyzone.ponycanyon.co.jp/(最終閲覧日2019年12月12日)

 NEWS「希望~yell~」

https://www.jehp.jp/(最終閲覧日2019年12月12日)

その他5つの楽曲はリリース日が15年ほど前で情報が古くなっており、公式サイトには記載されていなかったため、非公式サイトを採用した。

https://entamedata.web.fc2.com/music2/sports_music3.html(最終閲覧日2019年12月12日)

 

  1. 参考文献

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岡本敏・名畑俊哉・劔持和也・中島毅(1997)『ORICON CHART BOOK―Listing by artist』株式会社オリコン

伊東雅光(1997)「ユーミン言語学」『日本語学』

小野澤志保(2013)「J-POPにおける日本語の研究 : 現代流行歌の歌詞に見る特徴」,『国文』119,p. 73-61,お茶の水女子大学国語国文学

オリコンランキング-ORICON NEWS- https://www.oricon.co.jp/rank/

(最終閲覧日2019年8月30日)

柏葉智子(2006)「ヒット歌謡曲の語彙分析―三〇年間の持続と変化―」,『研究ノート』34,p. 49-54,日本女子大学国語国文学

久保正敏(1995)「ニューミュージックに見る恋愛風景」『情報処理学会研究報告人文科学とコンピュータ(CH)』25,p.49-57

小林佳織・狩野恵里奈・鈴木崇史(2013)「女性グループの歌詞の計量テキスト分析」,『言語処理学会年次大会 発表論文集』,19,p.1-5,言語処理学会

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ジャニーズ事務所公式企業サイト https://www.johnny-associates.co.jp/(最終閲覧日:2019年12月11日)

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